SSブログ

DSGメカトロ修理奮闘記 [メンテナンス]

近年のVW車にお乗りの方ならどうしても心配になるDSGの故障。特に乾式7速DSGの不具合の事例が多いようで、これまでにも何度かリコールが発表されています。そんな中、昨年にゴルフⅦの日本発売記念モデルであるハイライン“デア・エアステ”を中古で購入されたHID専門店Jamixの店長さんから『故障発生~DSGの復活』までのレポートを頂きましたので、ご紹介させて頂きます。

01.jpg

(写真:ゴルフⅦのメカトロAssy)

◆2020年6月下旬《都内某所》

 ある日、自宅駐車場から出ようとしてシフトをDに入れてアクセルを踏むも、全く加速しない状態に[あせあせ(飛び散る汗)] そこでエンジンを再スタートして今度は走り出すものの、加速やシフトチェンジに違和感を感じました。しかしながら、車速が安定すると大きな問題がなく走れました。

 10分後、一旦クルマを止めてエンジン再スタート。やはりギアが抜けるような感じが始まり、クラッチが勝手に切れてアクセル空ぶかしの状態になったりもしました。また信号待ちからのスタート時にショックが発生したりするようにもなりましたが、何とか走れバックも一応出来るので、この日はそのまま自宅へ戻りました。

 メーターパネルには異常の情報は表示されませんでしたが、VCDSを繋いでチェックすると“メカトロの異常”であると思われるフォルトコードがあり、現状では何とか走れるので、アキュムレーターの破損からの圧力異常ではないかと判断しました。


 おかけんさんにDSG不具合のことをお話ししたとろ、馴染みのディーラーのサービスの方にきいてくださり、「症状から、おそらくメカトロかクラッチの異常」ではないかとのことでした。クラッチは昨年の納車時に交換しているので、メカトロが怪しいと思いましたが、修理費用は少なくとも30万円以上になるとのことで、非常に厳しい状況に追い込まれました。


◆7月初旬《関東圏の正規VWディーラー》

 繋がりのある正規VWディーラーまでクルマをレッカー移動して現状を確認してもらったところ、メカトロの不具合が確認できたものの、リコール対象車ではないので有償修理(約35万円)とのことで、修理するかは一旦保留状態に。デーラーの診断機では故障部部はメカトロ内部の基盤ではないかとのことでした。

 そこで今回の不具合の原因はメカトロ内部のTCU(コンピューター部分)の故障と断定し調査を開始しました。自分でいろいろと調べてみたところ、日本では幾つかの整備工場でリビルト品を使って修理対応(20万円~)を行っているとの情報を得ましたが、現状で再びクルマを動かすことが難しい状況です。

 さらに海外の情報を調べてみると、国内のディーラーのようにメカトロ一式(Assy)の交換ではなく、TCU(Transmission Control Unit)のみを交換する事例が多数あることがわかりました。

02.jpg03.jpg

写真:TCU


◆7月中旬

 いろいろと調べていくうちに、TCUには品番が異なる数種類が存在し、また生産国に違いもあることが判明しました。具体的には“0AM 927 769”の末尾にD/G/Kなどの種類があるようです。生産国はドイツ、イギリス、ルーマニア、中国などです。これらはVSDSで確認することが可能(生産国は視認でしか確認できません)で、私のゴルフ(2013年式初期モデル)は“G”で生産国はルーマニアであることがわかりました。


Misc.
     Hardware number: 0AM 927 769 G
     Workshop System Name: J743
     Equipment/PR Code: FFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFF
     ASAM Dataset: EV_TCMDQ200021
     ASAM Dataset Revision: 001001
Car Info
     Chassis Number: WVWZZZAUZDW******
08.jpg

 参考までにおかけんさんのゴルフⅦ(2015年モデル)の末尾は“K”とのことです。


Misc.
     Hardware number: 0AM 927 769 K
     Workshop System Name: J743
     Equipment/PR Code: FFFFFFFFFFFFFFFF
     ASAM Dataset: EV_TCMDQ200021
     ASAM Dataset Revision: 001001
Car Info
     Chassis Number: WVWZZZAUZFW******


 そこで海外のサイトでメカトロの販売店を探したところ、値段はピンきり。基本的に新品の在庫は無いと言われてしまいます。さらに厄介なのが「Anti-Theft」(盗難防止)という制御があるので、単に装着しだだけでは使えないという情報が多々ありました。これについて、さりげなくディーラーに質問したところ、そんな話しは聞いたことがないとのことでした。

 ここまでで「どうしたものか?」と悩みに悩んだところで、海外からメカトロを購入して、国内の整備工場で交換してもらう決断をしました。そこで中国のショップにリビルトのメカトロ一式(TCUとバルブボディー部分のAssy)“0AM 927 769 G”を発注するも、コロナの影響で輸入時にトラブルがあり、思いのほか到着に時間がかかることとなってしまいました。さらに、到着したメカトロの中身をチェックすると、何と“0AM 927 769 D”が入っていました。早速クレームの連絡を入れると「こちらのミスで間違えた」ということで交換品の発送を依頼するも、先に送った部品を返却してくれと言われたり、海外通販ならではの面倒な事態になりました。


◆8月中旬《関東圏の整備工場》

 ようやく中国から“0AM 927 769 G”が届き、関東圏の整備工場でメカトロの交換作業に入りました。

 こちらの整備工場はメカトロの交換作業は経験豊富ですので、作業自体は順調に終わりました。ところがエンジンを始動しようとイグニッションをONにすると・・・

 シフトの“P”が点滅してエンジンが全く始動しません[あせあせ(飛び散る汗)]。メカトロの販売店に相談するも「こちらでは発送前にチェックしているので問題ない。Anti-Theftの問題だ。」とのことで、全く取り合ってくれません。

 最後の頼みの綱とVWディーラーに相談するもAnti-Theftにつての情報は持ち合わせていないようで、「普通に付けるだけで動くはず」とのことでした。

 ここで、また振り出しに戻って色々調べてみると、故障したオリジナルのTCUのプログラム自体に破損がなければ、ツールを使ってデータをクローン(完全コピー)することができ、その場合Anti-Theft(盗難防止)情報もクローンされるので、正常なTCUのプログラムを書き換えることで、そのまま装着するだけで動くという情報を得ました。

 この“TCUプログラムをコピーするツール”というのは幾つかあるようですが、KESSというECUツールがメジャーなようで、こちらを入手してみました。

04.jpg

 ところが、KESSでは故障した“0AM 927 769 G”からはデータが読み取れませんでした。さらに、MINI DSG READERというツールも購入してみましたが、GOLF6までしか使えないことが判明し、こちらも挫折[たらーっ(汗)]


05.jpg

 最終手段として、Anti-Theftをクリアできるという海外では定番の統合ツールであるODISも入手しました。海外ではこれを使ってDSGやTCUなどミッション系が主に論議されているフォーラム掲示板を発見。こちらを見ると、ODISを車両のOBDポートに接続し、Anti-Theftを解除できるとの情報があります。しかし操作方法の情報が見当たらず、更には正規VWディーラーのオンラインアカウントも必要な模様。再度国内ディーラーに相談してみましたが、私の車両の状態ではODISでもメカトロにアクセスできないので、何もわからないとのこと。


 いよいよ万事休すかと思われたとき、上記の掲示板で“Anti-Theftをリモート操作で解除するサービス”を発見。複数の業者がみつかりましたが、時差を考えてベトナムの業者に相談すると「できる」とのことでお願いすることにしました。


◆9月上旬《関東圏の整備工場》

 2種類のODIS(EとS)をセットアップしたPCを持参して、整備工場まで赴きました。車両のOBDポートとPCを接続し、あとはリモートアクセスで業者に作業を託します。ところがコミュニケーションエラーでTCUにアクセスできず、「このTCU」は壊れている」との判断で、作業を進めることができませんでした。あげくの果てに、ベトナムの業者は「お前は何でこんな壊れた部品を買ったんだ!」と不機嫌になる始末で、非常に後味の悪い結末になってしまいました。

 これには、すでに何度も折れかけた心が、更に折れてしまいます。整備士さんにも多大な迷惑を掛けていますし、既に投じた費用もかなり積み重なってきています。今からでも正規VWディーラーで通常のAssy交換を依頼するべきだろうか? けれども、ここまできてさらに35万円の出費は相当な痛手です。もう一度、もっと詳しい販売店からTCUを購入するかと再度検索しまくると、EU向けにTCUを販売している中国の業者を発見。今まで得た知識を元に販売店に色々と相談してみると、オリジナルのTCUからプログラムが読み取れるなら、そのTCUを送ってもらってこちらでクローンするのが一番無難とのこと。

 ちょうどこの頃、ドイツに発注していた“VCDSとTCUを直接接続できるハーネス”が届きました。これは12Vの電源を直接TCUに送り込み、TCU自体を解析できるものです。


06.jpg

 早速こちらを接続し、VCDSで解析するとオリジナルTCUのデータが見れることを確認しました。「これは行ける[exclamation×2]」と確信し、すぐに中国の販売店にオリジナルのTCUを送ったところ、先方でもプログラムは読み取り可能とのお返事をもらいました。この販売店は新品(完全ではない)とリビルト品のTCUを販売していたので、今回は新品を選択してこちらに自分のクルマのTCUのプログラムをクローンして書き込んでもらいました。


◆9月中旬《都内事務所→整備工場》

 待ちに待ったオリジナルのプログラムを書き込んだTCU“0AM 927 769 G”が、中国から届きました。購入したTCUは原産国が書いていないのでちょっと不安。取り急ぎ整備工場に送って、再度取付作業を依頼しました。

 連休明けにメカトロの取付作業を行いました。今回中国から購入したのはTCU部分のユニットのみでしたので、最初に買ったメカトロのバルブボディー部分と組み合わせる必要があります。その際、中に注入する専用のフールド(オイル、DSGオイルとは別)も必要になります。

07.png

こうして組み立てられたメカトロを、再びDSGユニットに装着します。最後に、DSGオイルを注入すれば作業完了です。



期待と不安の混じったエンジン始動・・・


 今まで何事もなかったかのように、エンジンが始動したとのことです。その情報を得て、早速整備工場までクルマを引き取りに行きました。通常、メカトロを交換した際には基本調整を行うとのことですが、今回は学習データもここもクローンされているのであえて行わず、必要なら後日自分で行うこととして、約150kmを走行して帰ってきましたが、現状でも何事も無かったように車は動いています[るんるん]

 ということで、長い期間と気苦労は多かったですが、何とか正規よりは安価な費用でDSGの修理を行うことができました。多大なお世話になった整備工場のスタッフのみなさまには、この場をお借りして心より感謝申し上げます。


【今回のメカトロ修理を振り返ってみて・・・】

 一番最初に購入したTCUにドイツから購入のハーネスを繋いでVCDSで解析すると“0AM 927 769 D”と末尾にDの文字が! 購入店にクレームするも、この店は購入時に保証がないと聞いていた通り、発送時にはそんなことはなかったと言い張りました。これが中国の怖い所ですね。良い人も大勢いらっしゃいますが・・・。

 今回、ここまで多くのことを学習したので、私と同じ悩みを抱えるVW車のオーナーさんたちに提供できる情報があればと思い、このレポートを書かせて頂きました。

 必要なのはTCUの情報を扱うスキルはもちろんのこと、信頼できる部品の仕入先、そして事前にエラー解析&故障原因の特定、メカトロ脱着を行ってくれる整備工場さんです。

 また、私のようにTCUを海外に送るというのは、手間や時間もかかることからオーナーさんへ負担も多く、できれば国内でクローンできることが望ましいです。とはいえ、GOLF7のTCUのクローンには数種類のツールが必要なことが判明しており、当方でそれらを揃えられるか諸々検討中です。

 保証やリコールで新品のメカトロに交換されたオーナーさんは比較的心配は少ないと思いますが。私のように6万km超えの中古車を比較的安価に購入している方はリコール対象にならず、保証もない状態で35万円の出費は厳しいです。メカトロの主な不具合はTCUの故障(私は半田割れと思っています)、アキュムレーターの亀裂、ソレノイドの動作不良が主ではないかと思っていますが、これらはそれぞれの箇所だけを交換することも可能です。日本国内ではパーツ単体を入手するのは難しいですが、アクチュエーターやソレノイドであれば、プログラムの問題も無いのでメカトロの脱着ができれば、比較的容易な修理かと思います。

09.jpg

写真:アキュムレーター、この筒状のケースの破損による不具合例もあります。

10.jpg

写真:ソレノイド、この部分が稼働してギアの変速動作を行います。


海外では様々なリペアパーツも販売されているようです。

11.jpg

12.jpg

◆参考リンク◆


nice!(4)  コメント(6) 

nice! 4

コメント 6

Jamix

記事掲載有難う御座いました!
今回は本当に色々と苦労しましたが、その苦労と知識を何か還元できたらと思っています。
クローニングの機材や耐久性バージョンアップキットも調査中です。

具体的な故障例なども掲載してみています。
https://store.shopping.yahoo.co.jp/jamix/dsg.html

また何かありましたら、レポートさせて頂きます。
by Jamix (2020-10-05 17:05) 

おかけん

Jamix店長さん
この度は本当に長い闘いでしたね。本当にお疲れ様です。
一時は万事休すかと思われましたが、無事復活とのことおめでとうございます。
初期モデルのリコール対象外というのは何とも解せないですが、有償修理をされた方がどの程度いらっしゃるのかも気になるところです。
今回頂いた情報が、店長さんと同じように困っていらっしゃる方の参考になれば幸いです。
この度は貴重な情報を頂きありがとうございました。
by おかけん (2020-10-06 07:44) 

ゴルフ9

このお方、すごい根気と調査力とゴルフ愛ですね
これで35万の出費と来たら‥
いやー、分かってはいたものの
改めてとてもいい教訓になりました

昨今、VW車のコストカットが目立つ中、
私もゴルフを乗り継ぎましたが
ここにきて時期愛車は社外も検討しております
まぁ何を選ぶにしろやはり補償は大事ですね
by ゴルフ9 (2020-10-07 10:07) 

おかけん

ゴルフ9さん
本当に店長さんの根気には頭が下がります。
とはいえ、途中は本当にめげそうになっていました。
修理費用ですが、当初は10万円弱で済むのでは?との憶測でしたが、おそらくその倍くらいはかかったと思います。
おっしゃる通り、保証は重要なポイントかと思います。そういった意味で、正規ディーラーで購入するメリットはあるのではないでしょうか。
by おかけん (2020-10-08 00:00) 

ししとー

お久しぶりです。
パシフィックブルーのゴルフヴァリアントHL乗りです。

jamixの店長さんにそんなことがあったのですね。
店長さんの記事も拝見しました。
LEDフォグランプは、オフ会で実物を見せていただき、説明していただきましたので、安心して購入できました。

あれほどの知識や技術を持っている方でも心が折れそうになる事例。
私だったら、ディーラーで直してもらうか、廃車の2択しかありません。

最高に気に入っている車なので、長く気持ちよく乗るべく、1年前に足回りを一新しました。来年3月の7年車検ももちろん通します。
現在は5万kmちょっと。
エンジンもDSGも絶好調ですが、DSG関連の故障があったら、VWとサヨナラをすることになりそうです。
by ししとー (2020-12-29 06:57) 

おかけん

ししとーさん
お返事が大変遅くなりました。
ホント、DSG関係の故障は怖いですね。
私の場合、昨年の車検の際にリコールでメカトロ交換をしたので、まだまだ乗れれば嬉しいです。
by おかけん (2021-04-20 07:06) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。